工場見学Tour of the whiskey factory

工場見学における趣き

サントリー山崎蒸溜所は、JR「山崎」駅から徒歩で約10分、大阪府三島郡島本町山崎5丁目にある、サントリーホールディングスのウイスキー蒸留所です。同蒸溜所では、同社のシングルモルト・ウイスキーの主力銘柄である「山崎」を生産。また、同蒸溜所及びインターネットショップ限定販売の山崎の樽出原酒を生産しています。そして、日常的に工場見学が開催されており、週末については数ヶ月先まで予約が埋まっている状態です。

見学コースとしては、「山崎蒸留所ツアー(有料)」「THE STORY OF YAMAZAKI〜シングルモルト・ウイスキー山崎誕生の物語〜(有料)」「山崎ウイスキー館見学(無料・製造工程見学無し)」があり、私は「山崎蒸留所ツアー(有料)」に何度か参加しています(何度参加しても飽きません)。

さかのぼること80年あまり。サントリーの創業者である鳥井信治郎は、輸入品ではない国産のウイスキーにこだわり、京都の山崎の地に日本初の蒸留所を開設しました。そう、この山崎蒸留所は、「日本のウイスキーのふるさと」であり、世界に誇る「日本のウイスキーの聖地」なわけです。こういった前知識があるのとないのとでは、工場見学における趣きがまったく変わってきます。

天使のわけまえ

工場見学では、ガイドさんの解説付きで一通りの製造工程を見ることができます。成分や釜の種類なども興味深いのですが、私が一番好きなのは「天使のわけまえ」の話です。

違いがわかるようにあえて蓋の部分を透明にした2つの樽。左が12年寝かせたもの、右が4年寝かせたものです。明らかに中身の量が違いますよね?これは熟成中に水分・アルコール分が木の樽を通り抜けて蒸発しているからなんです。

昔の人はこのメカニズムがわからず、「実は貯蔵庫の中に天使が住んでいて、ウイスキーを飲んでるんじゃないか?」と考えたそうで、この目減り分を「天使のわけまえ」と呼んだのでした(「天使の取り分」とも言うらしいです)。素敵じゃないですか?なんだかロマンを感じます。製造量は減ることになりますが、長い年月寝かした方が味に深みが増し、当然価値も高くなります。

なにも足さない。なにも引かない。

一歩工場の外に出ると、こんな風景が広がっていて、心が洗われるようです。京都の南西、天王山の麓の雅な竹林が生い茂る山崎は、豊かな自然に抱かれた地。桂川、宇治川、木津川が合流し、平野と盆地に挟まれた独特の地形と湿潤な気候により、ウイスキーづくりの理想郷とも言える最適な風土を形成しているのです。山崎は、万葉の歌にも詠まれた名水の里で、「離宮の水」と呼ばれる清らかな水が今もこんこんと湧き、日本の名水百選のひとつに数えられています。茶道を究めた、かの千利休もこの水でお茶をたてたとされ、山崎蒸留所で生まれるモルト原酒ももちろんこの伏流水で仕込まれています。

ツアーによっては、工場見学後に「シングルモルト楽しみ方講座」を受けることができます。会場の入口では、あの名作コピーのポスターがお出迎え。

なにも足さない。
なにも引かない。

短いですが、その魅力がぐっと凝縮されています。個人的に大好きなコピーです。

ブレンダー

ところで、皆さんは「ブレンダー」という仕事をご存知でしょうか?多くの場合、ウイスキーはブレンダーの手によってブレンドされ、ひとつの商品として発売されます。一種類の原酒だけつくられるシングルモルト・ウイスキーは、非常に優れた原酒であることからも、全体量の1割にも満たないと言われています。とはいえ、多くのブレンデッドウイスキーのレベルが低いわけではありません。熟練のブレンダーの実力を楽しめる、という側面もあります。数ある原酒の中から1日200~400種類をテイスティング。製品それぞれの特徴やクオリティを満たすものを選び、組み合わせ、ひとつのウイスキーに仕上げます。いわばブレンダーは、おいしいウイスキーづくりに欠かせない味わいと香りのハーモニーを引き出す指揮者なのです。

1日に200~400種類・・・。毎日仕事中に酔っ払ってしまいそうですが、そこは軽く口に含むだけでテイスティングをしたらすぐに吐き出すとのこと。そりゃそうですよね。

数十年後の樽の未来をも予想できる感性。熟成させる年月や新しい樽に仕込むタイミングなどを的確に判断できる豊かな経験。そして、新たな原酒を組み合わせ、新製品を創造する熟練の技。これらすべてを兼ねそろえるのがブレンダー。まさに“匠”です。